教えてくれない。

「なぁーカナ、オトコが心底惚れてる女房に一番言いたい言葉ってなんだとオモウ？」

「なにそれ？」

「いいから、ちゃんと考えてみて。」

「う〜〜ん。。。なんだろ？　「ありがと」かな？」

「ハハ、やっぱりそうきたか！単純だなぁ　まだまだしょんべんくさいガキだな。」

「えーーー」

「礼なんて言われてるうちは、オンナもまだまだ半人前。
　「すまない」これが、オトコが心底惚れてる女房に一番言いたい言葉。」

「えーそんなのオトコのエゴだよ。」

「確かに、オレが言っても説得力ないなぁ〜バァーさんにでも言ってもらわないと。
　実は、こないだ読んだマンガ本にのってたセリフなんだ。」

「へぇー」

「興味あったら自分で探せよ。オレの書斎のどこかにあるから。」

お父さんはいつもこうやって、ある本の一部分を紹介してくれるのだけど、本のタイトルとかは教えてくれない。
「本棚の前で、目を閉じて、耳をすませてごらん。本が呼んでくれるから。それが一番今の自分に必要な本なんだよ。」なんてクサイセリフを恥ずかしげもなく言う。
そしてボクは、お父さんの書斎で読みたい本に一発で出会えた試しがない。「これかな？」ってチョイスしても決まって教えてもらった一文は含まれていない。でも、おもしろい本ではあるのだけど。